「お茶ってこんなにおいしかったっけ」


ぽつりと感想がこぼれる。

残りのお茶もすべて飲み干して、ほうっと息を漏らした私を、意外そうに拓実が見ていた。


「なに?」

「いや。……気に入ったんなら、二煎目も飲むか?」

「え! やったあ」


素直に喜んでいれば、「調子いいな、酔っ払い」と毒づく声が聞こえる。

気にしない、気にしない。自分に言い聞かせながら大人の対応で待っていると、拓実はステンレス製のポットを出してきた。


「味の違いを感じてもらうために、この中にはさっきよりちょっと高めの温度のお湯が入ってるから、こっちの湯冷ましに注いで三十秒くらい経ったら急須に移して。三煎目以降はポットから急須に直接お湯を注いでいいから」

「ほう」


拓実の説明に神妙な顔で頷き、ポットのお湯を湯冷ましに注ぐ。それから三十秒を数えるべく、私は小さな声で歌いだした。


「ハッピバースデイトゥーユー、ハッピバ――」

「いやいや、急にどうした」


焦ったように遮ってきたのは、もちろん拓実である。


「知らない? ハッピーバースデイの曲って普通に歌えば、だいたい十五秒なんだよ」

「知らねえよ、突然歌いだされたら怖えよ。フラッシュモブでもはじまるかと思ったじゃねえかよ」

「だから声小さくしたのに。ていうか、拓実のせいで何秒経ったか忘れたじゃん!」


ああ、もったいない。おいしい飲み方を指導してくれるはずの人に邪魔されるなんて。


「お前がわけ分かんねえ数え方するからだろ。今でちょうどくらいじゃね」

「本当かなあ」


半信半疑で湯冷ましから急須にお湯を移す。そのまま湯呑みに注いで、最後はまた絞りきるように急須を振った。