ポンと肩に手がのる。そのまま軽く揺さぶられて、気持ち悪さは頂点に達した。
あー、だめだめ。出てきたらダメだって、唐揚げとビール。
「なあ、お前」
「うえええ気持ち悪い……」
「え、酒臭い……って、うわ、おい! ここで吐くなって!」
なんだか必死な声、とお茶の香り。
次の瞬間、グッと肩を抱かれる。意外とがっしりした腕してるんだなあ、などと呑気なことを考えた。
「俺の店の前だから、ちょ、とりあえず中入ってから吐け!」
引きずるように運ばれながら見上げた夜空には、三日月がくっきりと浮かんでいた。
「つ、月がすごく綺麗……」
「お前、自由かよ!」
私がしゃがみ込んでいたのは、どうやら夕方見たダサい看板の前だったようだ。暗くてあまり見えないけれど、お屋敷の門をくぐると砂利が敷かれているみたいで、一歩進むごとに音がする。草木の生い茂った庭からは野生の動物でも出てきそうで、そっと視線を逸らした。
「おえ……」
「おい待て、あとちょっと」
カララ、と引き戸が開く。
「靴脱がなくていいから、トイレ行け、トイレ」
パッと明かりがついて、まぶしさを感じているうちに奥の個室に押し込められた。その後はお食事中の方もいらっしゃるだろうから割愛するけれど、とてもすっきりした。