「なにしてんだろ、私」
ブロック塀にもたれかかって、ふうと息を吐く。
片道四時間かけて伊勢まで来て、友だちの幸せそうな姿をうらやましがって、勝手に焦って。久しぶりにゆっくり話ができて嬉しかったのに。あとでちゃんとお礼のメッセージを送っておこう。
「うーん、しかし眠たい……」
こんなに飲んだのは、大学のテニスサークルの追いコン以来だ。とはいえテニスサークルというのは名ばかりで、テニスをした覚えはない。なんか大学生っぽいという理由だけで莉子を誘って一緒に飲み会へ顔を出していた。
そこで出会ったのが、彼だった。
サークル内でも有名なバカップルだったと思う。『葉月たちは安定だよね』とよくからかわれていた。
「これから、どうしようなあ」
『婚約破棄になったのでやっぱり退社しません』なんて戻る勇気はない。『あとは任せて』と快く送り出してくれた職場の人たちに、どんな顔を向ければいいというのだろう。
だからといって、彼の荷物が置いてあったスペースだけ不自然に空いた1LDKにずっと閉じこもりたくもなかった。ふとした瞬間に彼を思い出してしまうあの部屋で、いったいどうやって息をしろというのか。
嘲笑が漏れる。仕事も恋人も失ってどうしようと悩みはするのに、別れたその日から不思議と涙が出ることはなかった。
「ううーん……」
ズルズルとしゃがみ込む。
どうしよう、ちょっと気持ち悪くなってきた。
眠いだけだったはずが、ウップと喉が鳴る。
「やだやだ、こんな道端で吐きたくない……」
「おい」
不意に背後から声がした。どこかで聞いたことのあるような声だけれど、反応を返す元気もない。
「おい。……おいってば」