彼女は嘘に嘘を重ねていた。

 目覚めたのはあの事故現場で、自分に心残りがあることも分かっていたそうだ。

そして、心残りをなくすために僕のところに来たようだが、彼女の「心残り」が問題だった。


「僕が幸せになれば、成仏できるの?」


僕が幸せになることは、ほぼ無理に等しかった。彼女をこの世から失って、幸せになることが。
彼女に正直に伝えた。

一瞬、悲しそうな表情を浮かべて、にこっと笑った。

そして、口を開いた。


「だから!私が守護霊としてつかさを幸せにするの!」


それにつられたのか、自然と笑みがこぼれた。

彼女に会えてよかった、そう前向きに思うことにした。
触れることができない彼女を、抱きしめるように手を丸くする。彼女も僕を抱きしめてくれたような気がした。

 するとすぐに、ドアのノック音がした。


「つかさー?夜ご飯、食べる?」


「お母さんだ。お静かにーっだよ。」


小声で彼女にそう伝え、下の階へと降りて行った。



 「ねえ…。お風呂にまで入ってくんの?」


「えぇー。いいじゃーん。」


「よくないです。静かにどっかで待っててください。」


「はーい。」と彼女は返事し、すたすたとドアをすり抜けていった。


 湯船に浸かると、溜まっていた疲労が一気に放出された気がした。

僕の幸せ、とは何なのだろうか。彼女がいないこの世界で、はたして幸せはあるのか。
彼女が死んで、自分も死のうとしていた。
幸せになれるはずがない気がしていた。

 そんなことを考えていると自分の体は熱く、のぼせてしまっていた。

 

 急いでお風呂から出て、部屋へと上がった。
冬華がベランダで空を眺めていた。
憂鬱そうな表情を浮かべていて、何かぼやいているようにみえた。



「冬華。寝るよ。」



彼女はこちらを振り向き、無邪気な笑顔で駆け寄ってきた。

彼女に触れられたら、そうどこか願っていた。