柴原さんはすずを洗面ルームへ連れていくと、ドライヤーを軽やかに響かせながらすずの髪を乾かした。

「はい、可愛くなったよ」

最後にすずの髪を手ぐしで整えて“可愛くなった”などと女子の喜ぶワードを恥ずかしげもなく言うので、すずの顔はにんまりと喜びに満ちていた。

「パパあいあとー。ねえねもやって」

すずはきちんとお礼を言うや否や、私を指差す。

「ねえねは自分でやるからいいよ」

「美咲もおいで」

柴原さんからドライヤーを受け取ろうとするが、柴原さんはそのまま私にもドライヤーをあてる。

「ちょ、自分でやります」

「いいからいいから」

柴原さんの長い指が私の髪の毛を優しくすいていく。触れられる度にその場所が熱を帯びていくようだった。

鏡に映る柴原さんはとても優しい表情だ。まるで美容師のように丁寧に私の髪の毛を乾かしてくれている。それがとても心地いい。

「美咲、自分のことにもっと時間を使って。これからはなるべく早く帰れるように努力するから、俺が早く帰れたら美咲はゆっくりお風呂に入ってね。いつもありがとう」

ドライヤーの音で途切れ途切れだったけど、その言葉は私の体中を駆け巡り胸はぎゅっと締めつけられた。
私の頑張りを分かってくれたことが嬉しくて、思わず目頭が熱くなる。

この時やっと、私は一人じゃないんだと実感した。