「美咲、俺がすずを見てるからちゃんとドライヤーで髪の毛を乾かしてきて。髪が痛むよ」

「うん?いいよ、今さらだし」

しっとりと濡れた髪の毛を手ぐしで整えながら首にかけたタオルで毛先だけをパンパンと拭く。

すずと一緒にお風呂に入るようになってからしっかりドライヤーで乾かすことがなくなった。すずの髪の毛はドライヤーで乾かしてあげるけど、自分の髪のことまでは気が回らないのだ。それに目を離した隙に何をしでかすかわからない二歳児を放って、優雅にドライヤーでブローする余裕も気力もない。

「それよりすずの髪を乾かしてあげなくちゃ。すず、おいで」

すずを呼ぶとすずは柴原さんの足にしがみつく。

「すずはパパにやってもらうね」

「あ、そう?」

「ねえねもパパにやってもらうね」

「……うん?いや?」

ちらっと柴原さんを見ると、口元に手を当てて笑いをこらえている。そして私と目が合うと、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた。

「美咲もやってあげるよ。おいで」

急に甘い声色で誘われてドキッとしないわけがない。だけど、そんな素直に誘いに乗る私ではないのだ。

「いえ、結構です」

「ぷっ、美咲って本当に真面目だね」

柴原さんは楽しそうに笑ったが、私は全然楽しくない。無駄に緊張してしまったではないか。