大人しく話を聞いていた柴原さんが、静かに口を開く。

「だったら俺の家に来ないか?」

「……はい?」

言われた意味がわからず、私はすっとんきょうな声をあげた。

「いや、俺の家はすずの保育園に近いし、そうなると橋本さんの職場にも近いんだろう?」

「いや、まあ、そうなのかもですけど。でも……」

「いわゆるルームシェアだ」

「ルームシェア……?」

私は柴原さんの言葉を反芻する。
確かに生活をやりくりする上で、立地的には申し分ないだろう。

だけど、そんな、ねえ?

「家賃とか、光熱費とかどうするんです?」

「そういうのは全部俺が払うから、気にしなくていい」

といわれましても、じゃあお願いしますなんて即決はできない。だって柴原さんはすずの父親だけど、私とは他人で異性で……って、そんなことを気にする方がおかしいのだろうか。

いやいや、おかしくないでしょ?

義兄ではあるけれど、まだ知り合って数日。
ルームシェアって言えど一緒に住むことには変わらないじゃないか。