プロローグ

こんな夢を見た。

外国であった。ここは文化が混在し、言語が混在した諸外国であった。
ここに住んでいた少年が私であった。
周りからは「イオ」と呼ばれていた。本名は別にあった。
私はスラム街に住んでおり、窃盗や強奪をするのは日常茶飯事であった。


今日も生きる為に出掛け、盗み、奪った。
しがたいのである。世界は収束が着くように回っている。誰かが不利益を被れば利益を手にする者がいる、その逆も必至である。私はそれを受け入れていた。
だから奪った。
だが決して捕まってはならなかった。スラム街に住むものに人権などもはや存在しなかった。
捕まればもはや家畜のような扱いを受け屠殺されるよりほかならなかった。
汚い装束に身を包み、街へ出た私は汚物を見るような目で見てきた大人たちに殺意をチラつかせ、歩いた。
それが殺意だと知ったのはその後であった。
道端に座った。そして待った。
チャンスが来た。出店の人間が店の奥に入ったその隙を逃さず私は赤い果実を手に取り、懐へ入れた。
今日も楽だと思った途端、肩を叩かれた。
「お前、奪ったろ」
ギクッとした、その次の瞬間駆け出していた。
もちろん逃げ切れるはずもなく、すぐ捕まった。
死を覚悟した。2人の警官に拘束され、目隠しされ、連れていかれた。
道中、殴られ石を投げられた。
痛かった。

扉の音がして、中にはいらされたあと、止まるよう命令された。
「君か、果物を盗んだのは」

優しそうな声だった。
無言で頷いた。
「そうかそうか、じゃあ、死ね」
その瞬間、その場に倒れた。殴られたのだとわかったのは次の暴力が来た後であった。
頭を蹴られ、足を棒で殴られた。口が血でうがいが出来そうであった。
気絶寸前で、10分程経過した頃、声の主が言った。
「おい、このクズをあの場所へ連れて行け」

どこへ連れていかれるかわかったからであった。
治安が悪い事から、この地区の長は死体の置き場を統一化していた。それはさながら羅生門のようであった。
しかし、建物ではなく、円形の穴が空いていた所へ水を溜めたただの池であった。近所は悪臭が漂い、池は赤く染まり、骨と肉が入り交じったそこは、まるで地獄の様相を呈していた。
ああ、死ぬんだと思った。

手押し車に積まれ、そこの死体置き場に向かわされた。薄い目をあけて、最後の空を見た。太陽に目が眩んだ。
手押し車が、止まり、引きずられて、血の池に、突き落とされた。