屋上で寝ていると、校庭からの怒号でたたき起こされた。
如月(きさらぎ)鉄を出せ!!! カチコミじゃあ!!!」
 うるせぇなぁ、ゆっくり寝かせろ。フェンスから校庭を(のぞ)く。見たことない顔ばかりが数十人分。前にボコったやつが、仲間連れて報復しに来たって感じじゃなさそうだな。
「んだ、うるせぇぞ!! こっちは寝てんだよ、ボケどもが!」
「お前が如月か! 俺は緑沢雅! ここら仕切ってんのがお前って聞いたから、どんなやつか一目見たくてな」
「一目見にきただけって感じじゃなさそうだなぁ! ちょっと待ってろ、そっち行ってやるよ」
 屋上から出て、階段を降りようとすると、結城が立っていた。()しくも、最初の日と同じ構図だ。今回、結城は普通の制服を着ているが。
「行かない方がいいよ。前に言った、あいつよ」
「知ってる。でもな、売られた喧嘩を買わない男は、不良なんて名乗れねぇよ」
「馬鹿。あんな人数、勝てるわけないよ。それに、魔法少女として、魔力を人間相手に使うのは見過ごせないし」
 泣きそうな顔して心配してくれる。嬉しい気持ちもあるが、あんな人数に負けると思われてるのか、ちょっと悲しいな。ただ、言ってることはもっともだ。多分、俺が強かったのは魔力のおかげだ。でも、人に使わなければいいってことは、攻撃に使わなければいいんだろ。防御に応用できることを、結城は知っているんだろうか。俺は言っていないけど、魔法少女としての感覚で気付いているかもしれない。魔装をくれれば、こんな応用する必要なんてなかったんだけどな。
「勝てる勝てないで喧嘩はしてねぇよ。売られたなら買う。単純なんでな、難しいことは分かんねぇけど、だったら魔力を使って殴らねぇよ。それでいいか?」
「……最後、緑沢と戦うときだけは使っていいよ。彼からは魔力の気配をすっごく感じる。この高校に近づいてきてるのも、ずっと分かってた。だから、気が立ってたの」
 結城様のお墨付き。緑沢をぶっ倒せば、この夢魔大量発生も止まるだろう。だったら、俺がやるしかないな。
「任せろ、信じろ。授業に戻れ」
 一緒に階段を降りていく。途中の階で、結城とは別れる。最後に「頑張れ」と聞こえたのは、気のせいじゃないよな?