「集中して! 何、別のこと考えながら戦ってるの!? 危ないよ!」
 杖から炎の球を発射しながら怒る結城。我に返って、頬のすぐ横をかすめる触手を避けて、
「悪いな、こいつ倒してから考えることにするわ」
 返事をして、構える。けど、触手型は俺が一番苦手な相手だ。結城もそれを分かってくれているから、不慣れな攻撃魔法でアシストしてくれている。飛んでくる触手を一本ずつ撃ち落としていくが、キリがない。後ろにいる結城が魔力を練っている間、正面で守り続けて、特大の火炎球をお見舞いするのが、基本戦術だ。だが、今回の夢魔は今までのやつらより段違いに大きい。ここのところ、だんだんと夢魔が強くなっていってる気がする。倒し方自体は、相手の型に合わせたパターンでやるだけなんだが、人型以外と戦うときの結城への負担が気になる。自分の身体に溜め込める魔力量は決まってるから、杖に移し替えて、再び練るらしいが、練るためにも体力を使っているようで、背後から荒い息遣いが聞こえてくる。
「大丈夫か? 無理すんな、お前は授業もサボれないんだからよ」
「無理はしてないけど、鉄に任せたら、危なっかしくて、しょうがないもん」
 息切れしている。何とかして、俺が倒せればいいんだけどなぁ。魔力変換、できるようになりてぇ。そうすれば、少しでも楽にしてあげられるのに。
「良し、OK!! どいて!!」
 気迫にビビりながら、右にずれて射線を通す。今日はやけにピリピリしてるな。
「発射!!!!!」
 杖の先が赤く輝き始める。そして、熱線。魔力の使い方や練り方は、先輩である結城の方が上手い。五メートルほどある夢魔を飲み込むほどのビームが発射され、器用にも後ろの校舎に当たる手前で止めている。うめき声なんてものが聞こえる暇もなく、影も残さず燃え尽きた。ビームが少しずつ細くなっていき、消える。結城に駆け寄る。
「ありがとな。やっぱり助かるわ」
「こちらこそ、ありがとう。でも、今度からは一人で倒せるようになってね」
 怒ってそうだ。女心ってのは分からない。機嫌が良い日と悪い日の差が激しい。不良やヤクザに絡まれてもビビることはないけど、普段優しいやつが急に怒ったりするのは、ビビるからやめてほしい。振り返りもせずに、帰っていく。今日はこれで終わりか。夕焼け小焼け、また明日。明日は機嫌が直ってるといいな。