それから一週間、結城にみっちりしごかれた。最初は、魔力を自分でコントロールできるようにする訓練。これは簡単だった。喧嘩の時に感じる、血の滾るような熱い感覚を手や足に集中させる。素肌を接触させた方が魔力を流し込むのが楽だから、基本的には拳に集中させる練習ばかりした。単純な破壊力も上がるため、コンクリの壁くらいはぶち破れるようになった。応用編として、他の人間や夢魔の魔力を感じ取る力を鍛えた。魔力の流れは命の流れ、いわゆる気配ってやつだ。
 訓練しながら、魔力と魔法少女について詳しく教えてもらった。魔力ってやつは、全人類が持っている魔力生成器官を能動的に動かすことで大量に生み出せるらしい。さっきも言ったように、魔力は生命力そのものなので、普通は魔力を放出なんてしたら、良くてその場で気絶、最悪の場合は体力の限界を迎えて死亡することになる。だから、訓練で放出する量を調整したり生成する量を増やしたりする。で、魔法少女はその訓練を積んだ職業で、夢魔を倒すことが仕事なんだそうだ。職業というだけあって、「魔法少女協会」があってそこから報酬が出ている。残念ながら俺は少女じゃないため、特殊事例扱いで、魔法少女にはなれない。協力する代わりに結城の報酬をくれると言ってくれているが、断った。女から金を貰ったら、まるでヒモだからな。それよりも、魔法少女が着ている魔装(まそう)が欲しい。あれは数トンの衝撃を魔力消費と引き換えに相殺することができる便利アイテムだ。デザインだけ変えて、学ランの魔装を作ってもらいたいところだ。魔装とセットで、杖も配布されるらしい。本来、魔法ってやつは魔力を炎や氷に変換して放出するため、直接、肌から放出してしまうと自分が傷ついてしまうから、杖を利用するらしい。俺はそこも特殊で、魔力を変換する力がなく、魔力そのものを相手にぶつけることで攻撃する。だから杖も必要ない。
 訓練を終わらせたら、すぐに夢魔と戦わされた。結城は見た目の可愛さに反して、相当スパルタだ。喧嘩慣れしていたから、人型の夢魔ならそれなりに戦えるが、不定形の夢魔とか触手みたいな夢魔とかの相手は、文字通り骨が折れる。結城がすぐに治療して、「ほら、まだ敵いるよ! 早く倒さなきゃ!」なんて気合を入れてくる。クソ、女にケツを叩かれるのは悪くないが、気恥ずかしい。
 どうやら、男は夢の中にいる状態の夢魔とは戦わせることはできないらしい。理由は、誘惑されるから。夢魔ってのはサキュバスだそうで、女同士じゃなければ魅了の呪いにかけられて、魔力を吸い上げられる。夢魔は見る者の理想の女性に姿を変えて出てくるから、魅了の呪いを打ち破るのはほぼ無理、と言われた。信頼されていないのか、と思うと少し悲しい。
 何にせよ、そんなののせいで死の危険すらある相手と戦わされるのは理不尽極まりない。でも、結城と秘密を共有しているような感じが嬉しい。俺が命懸けで戦う代わりに、結城が治療を担当してくれる。女を前線に立たせるわけにはいかないからな。
 そして、冒頭に戻るわけだ。