「あ、言い忘れていたけど、お前、高所恐怖症じゃないよな?」

ニヤリ、と右頬だけを歪め、実に意地悪い顔で滝島さんが笑う。

「……ハイ?」

この言葉の意味をこのあと、身をもって知ることになる……。

「無理。
無理無理無理無理無理無理」

「無理じゃねーよ。
さっさと進め」

右手でしっかり命綱を握り、左手をぶんぶん振って無理だと否定する私を、少し先で滝島さんが待っている。
細い板を縄ばしご状に連ねただけの橋の下は……深い渓谷。
これって何メートルあるの?
高さだけでも足が竦むのに、さらに吹き抜ける風が橋を揺らしているとなると……恐怖はさらに倍増する。

「だって落ちたら死ぬじゃないですか!」

「死なない。
そのための命綱だろうが」

確かにそれはそうだけど。
ハーネスから伸びるロープはこんなんで大丈夫なの? ってくらい細いし。
それにそれが繋がる先だってそんなに太くないんだよ?