いるはずのない人物が一気に私のいる踊り場まで階段を駆け下りてくる。

「馬鹿か、お前は!」

慣れ親しんだ香りが、私を包み込む。
日だまりの匂い、……滝島さんだ。

「ば、馬鹿ってなんですか。
た、滝島さんが、む、無視するから……」

声が次第に湿気を含んでいく。
耐えきれなくなってぐずっと鼻を鳴らしたら、もっと強く抱き締められた。

「俺は伊深が……茉理乃が、好きだ」

滝島さんの手があごにかかる。
上を向かされた視線の先には、眼鏡の奥の潤んだ瞳が見えた。
次第に近づいてくる顔に目を閉じた……けれど。

「お前たちはいったい、なにをやっているんだー!?」

大石課長の怒号が降ってくる。

「……ちっ」

え、滝島さんいま、舌打ちしましたか?