「うん、じゃあ、お大事に」

きっともう、二度と来ることはないだろうと確信を抱きつつ、英人の家をあとにする。
あの英人から礼を言われるなんて思ってもいなかった。
しかも、あんな笑顔で。
けれどもう、私がそれにときめくことはない。
私の叶えたい恋はこれじゃないと気づいてしまったから。

「……でも、あの人にとって私は――」

電車の窓に映る私は、思い詰めた顔をしていた。
ただの、同じ仕事をしている後輩。
そういえば、ベッドの中では名前で呼ばれた方が好きな人に抱かれているつもりになれていいだろ、などと言いながら、自分のことは名前で呼ばせなかった。
恋人に抱かれているつもりなら、名前で呼ぶ方がその気になれていいのに。



火曜の朝は早く起きた。
軽くプレゼンの見直しをし、買ったスーツに着替える。
路さんに教えてもらったとおりに髪をセットして化粧をした。

「よし!」

絶対、今日はできる。
路さんも小泉さんも、滝島さんだって太鼓判を押してくれた。
頑張るぞ!