「病院、行くよ」

また、ふる、ふる、と首を振る。
かまわずにタクシーを呼び、散らばった服の中から厚手のコートを引っ張りだした。

「財布は……」

テーブルの上にそれは放り出されていて、すぐに見つかった。

「悪いけど、中を見るよ」

開けた財布の中に保険証を見つけてほっとした。
ついでにお金を確認したが、お札は千円札が二枚しか入っていない。

「仕方ない、か」

ベッドから起こし、コートを着せる。
持ってきたマスクをさせ、嫌だったが巻いてきたマフラーでぐるぐる巻きにした。
まるっきりこの間の滝島さんと同じ行動に、こんなときなのにくすりと小さく笑いが漏れた。

「ほら、歩いて」

私のより背の高い彼を支え、階段を下りるのには難儀した。
危なっかしく階段を下りてくる私たちに、待っていたタクシーの運転手が手を貸してくれたほどだ。