「そろそろ帰るわー」

「あ、じゃあ私も」

帰ろうとコートを取りかけたら滝島さんに止められた。

「伊深は最後のレッスンが残ってるから」

「あ……」

彼の言葉の意味がわかり、今頃になって酔いが回ってくる。

「なに?
別にいいけど、茉理乃ちゃんに変なことはしないでよ、滝島」

「わかってますよ、丹沢姐サン」

玄関までふたりで路さんを見送った。

「じゃ、茉理乃ちゃん。
成功を祈ってるわ」

「はい、頑張ります」

「じゃあねぇー」

ひらひらと手を振る路さんがドアの向こうに見えなくなり、滝島さんとふたりきりになった。