デコピンされた額を押さえる。
割り勘のときはいつもそう。
滝島さんの方が多めに払ってくれる。

タクシーの中では無言だった。
私のマンションが近づいた頃、ようやく滝島さんが口を開いた。

「今日みたいに遅くなる日は連絡しろって言っただろ」

そういえば言われた、迎えに行くからって。
もしかして今日は、だから待っていた?

「まあ、俺の役目ももう終わりだろうけど」

「……!」

きっと滝島さんは、さっきの電話が英人からだって気づいている。

「私は……!」

そこから先の言葉が見つからない。
私は滝島さんをどう思っている?

迷っている間にタクシーはマンションに着いた。

「おやすみ、伊深。
明後日、期待してる」

「おやすみなさい」