店を出たときには着信音は止まっていた。
はぁーっとひとつ大きく深呼吸して、リダイヤルする。

『なんでお前、家にいないんだよ!』

ワンコールも鳴らないうちに電話の向こうから怒鳴り声が聞こえてきて、思わず耳から離していた。

「……すみません」

『鍵ねーから中入れねーし。
電話したら出ねーし』

――そんなの知らないし。

などと思ったところで、口に出す勇気はない。

『もういい、帰る。
あ、明日、晩メシ作って待っとけよ』

「あのっ」

そこで唐突に電話は切れた。

「……はぁーっ」

重いため息をつき、店の中に戻る。
滝島さんの後ろ姿を見て、無理にでも笑顔を作った。

「外、寒かっただろ」