「まあ、許してやるにはまだまだだけどな。
……おっ、それはオレにバレンタインのチョコか」

「あっ。
か、返して!」

手に持っていた紙袋を奪われた。
慌てて、取り返そうとしたものの。

「ちゃんと彼氏にチョコ用意してくるとか、いい心がけしてるじゃないか」

「待って!」

追いかけたけれど閉まるドアギリギリで英人は電車に乗り込み、行ってしまった。

「……最悪」

待ち合わせまで時間もないし、目的のホームに向かう。
せめて迷子キーホルダーとチョコは別々に入れておくべきだった。

電車の窓に映る私は、元彼によりを戻してもらえそうとかいう嬉しそうな顔ではなかった。
英人を見返すためだけに頑張ってきたが、本当にそれでいいんだろうか。
あの英人に自分からよりを戻してください、と言わせれば私は満足なんだろうか。

「……わかんないよ」
はぁーっとついた重いため息は、自分の誕生日にはふさわしくなかった。