早く言ってくれれば買いに行くことだってできたのだ。
でも聞いたのは昨日夜遅く。
いまさら、どうすることもできないわけで。

「これでいいか……」

ウエストベルトの、スモーキーピンクのワンピースを選び出す。
オフィスには若干、フォーマルすぎる気もしないでもないが、まあ、ギリギリセーフ、かな。

いつもどおり髪を結って化粧し、出勤する。
電車を降り、改札を抜けてぐるっと周りを見るのはもう、なかば習慣になっていた。

「あ……」

今日は初めて、ひとりの男性と目があった。
一瞬だけ気まずそうにした彼は、すぐに怒ったように私から目を逸らした。

「元気そう、かな」

彼――英人は前と変わりないように見えた。
チクリと胸に刺さった針は気づかないふりで会社に向かう。
これで私がまた、あの時間に駅を利用しているのはわかったはず。
あちらから時間をずらしてくることも考えられるが、彼は朝が弱くてなかなか起きられないから、あれより早くも、遅くもできないはず。