茜が前へ進み出すと、とたんに地面の砂がふわりと宙へ浮かび上がった。
「・・・・・・へ?」
思わず瞬きする。
埃だけではない。先程雑賀がばらばらにした電柱の柱の欠片も何かに操られるように浮き上がった。やがてその欠片達は互いに集まり合い、破壊される前の形へ修復される。
「あ、あ、ああ・・・・・・」
声にならないとは、この事か。
まるで映像を逆再生したかのような異様な光景だ。そこまで来て、永松はそれが浮き上がったのでは無く、巻き戻ったのだと理解した。
「――――あたしは茜宗氏」
いつの間にか周囲の人々も、逆再生の動きで場から姿を消した。ぶった切りになった電柱の線も意志を持ったかのように再びつなぎ合わされる。
夢のような出来事の中で、茜は上品に口元を緩めた。
「安倍晴明を祖とし、陰陽道を以て朝廷に仕えた土御門の末裔。帝都最後の陰陽師さ。このくらいの事象なら、時を戻す奇跡(くらい)は実に容易い」
「は・・・・・・はは・・・・・・」
そうして再び電灯が灯り、周囲に光が戻る。先程とは違う、文明の灯火だ。
「眩しいねえ永松さん。眩しすぎるくらいだ」
先程の異常などなかったかのように、茜は呑気にそう笑う。
今、永松は確信した。先程まで疑っていた自分が愚かだと気付く。
この人は間違いなく茜宗氏だ、と。