「・・・・・・なんでお前さんが泣いているんだい、雑賀」

 全てが決着した。寒空の下。

 彼らの姿を慈しむように見ながら、茜は隣で号泣する雑賀へと苦笑した。

 雑賀は目から大粒の涙を流しながら、ひっくひっくと背中を震わせている。相変わらず泣き虫な子だ。それは出会った頃から変わっていない。

 「・・・・・・茜さんは、意地悪です・・・・・・」

 涙を拭きながら、雑賀は半眼で茜を睨む。どうやら相当怒っているようだ。

 「最初からこうなる事を解っていたなら、ここまであの子を傷つける必要はなかったはずです。茜さんは意地悪です」

 そういう事かい、と茜は再び苦笑する。

 彼女はどこまでも優しい。本当はこんな事はしたくなかったはずだ。

 「でもね、それは違うんだよ。あたしは本気で滅するつもりだったんだ」

 だからこそ、茜はそれを否定する。

 「あの子は永松さんの為に居たような怪異だ。彼がその存在を認識しない限り、その存在は永遠に闇に囚われたまま。それこそ可愛そうじゃないか。楽にしてあげないと」

 「・・・・・・」

 「でも」そこで茜は表情を緩め、雑賀の頭をぽんと振れる。

 「今は、本当に良い夜だと思うよ」

 「ああ先生っ! 不味いっすよっ! 不味い!」

 その余韻に浸っていると、正面にいた永松の声が裏返る。

 よく周囲を見てみると、周囲には騒ぎを聞きつけてやってきた野次馬が集まってきていた。周囲の長屋からも住民が何事かと窓から顔を覗かせている。

 随分と大げさな状況になってしまったものだ。呑気に状況を伺う茜に対し、永松の顔は血の気が引いたように真っ青になっていた。

 「ど、どうするんですかっ!? これもう誤魔化せませんよっ!?」

 「――――誤魔化す?」

 永松の焦った声とは裏腹に、茜はどこまでも落ち着いた声色で囁く。

 「見くびってもらっちゃあ困るねえ永松さん。あたしが何者か知っているだろう?」