「――――ようやく、思い出したかい」

 そうして、そんな夜の最後。その様子を見て、茜は安心したように体の力を抜く。

 「少し荒療治になって、申し訳ないねえ。でも良かったよ」

 本当に良かった、と。茜は噛み締めるように安堵の表情を浮かべた。

 手元の鎖を胸元に仕舞うと、提灯お化けにかかっていた青色の鎖も解けた。彼が足を進める際に鳴る下駄の音が心地よく聞こえる。

 「そう。お前さん達は友達だった。いや今より昔、怪異と人は友達だった。お互い支え助けられ、交わって、響き合って生きてきた」

 でも、と茜は寂しげな表情で帝都の空を見上げる。

 「文明の発展によって、人々は彼らを忘れてしまった。光の発達によってお前さんが彼を忘れてしまったようにね。でもそれは仕方の無い事なんだ」

 1920年。大正9年、帝都。

 妖の時代は既に終わり、文明が一気に顔を出すこんな時代。怪異と人が手を取り合う時代はとっくに過ぎ去り、人々の記憶から消え去ろうとしている、そんな時代。

 それでも人と妖が手を取り合うこの光景は、何時の時代だって美しい。

 「――――きっと人はまた彼らを忘れてしまう。それが自然の事だから」

 永松は目を真っ赤に充血させながら、提灯お化けをぎゅっと抱きしめる。

 「でも、それでも彼らは貴方達を忘れないから」

 そんな二人に、茜は永久の友情を願う。例えそれが叶わぬ事であっても。

 「だからお前さんが忘れるまで、忘れないでいて下さい」

  今だけはそんな未来を願った。

 静かな夜に、茜の祈りが心地よく響いた。