「――――止めろっ、止めてくれえええええ!」

 思い出した。全て思い出した。

 一目散に駆け走り、提灯お化けの前で両手を広げる。声は殆ど悲鳴になっていた。

 「違う! 違うんだ! 俺達は友達だ、友達なんだよおお!」

 そうだ、自分達は友達だった。彼はただ自分を心配して出てきてくれただけなのだ。真っ暗な中で、怯えていないかと。あの日のように光を灯してくれた。

 それなのに、自分はなんて酷い事を言ってしまったのだ。

 どうして忘れてしまっていたのだろう。今まで覚えていなかったのだろう。
 永松は溢れんばかりの涙を流しながら、深い深い後悔に溺れた。

 「・・・・・・ダイ、ジョウブ」

 そんな後悔の渦の中、ふとそのような声が届く。

 はっと、永松は顔を上げる。

 声の主は、シロからだった。今にも崩れ落ちそうな体でも、それでも彼は陽気に舌をべろっと伸ばす。自分を不安がらせないように、にこっと笑みを浮かべ、

 「ダイ、ジョウブ? タロウ?」

 確かに、そう言った。

 「・・・・・・っ!」

 今度こそ、永松はこみ上げてくるものを抑えられなくなった。

 「馬鹿、野郎っ!」

 目を真っ赤に充血させながら、永松はシロの体にがしっと手を触れる。

 数十年ぶりに触れたその体は、母親のように温かかった。

 「何でこの後に及んで、俺の心配なんだよっ!」

 声は殆ど悲鳴になる。

 本当に馬鹿な奴だ。こんな薄情な奴の為に、数十年も待っててくれているだなんて。そしてそれほど思われていたのに、呑気にこうして忘れていたなんて。

 「ごめんなシロ、本当に、ごめん・・・・・・」

 瞳からぽろぽろ涙を零し、彼の名前を呼ぶ。

 いくら後悔してもしきれない。だから今の自分に出来る事は、彼の名前を呼び続けてその名を忘れない事だけだ。最後の時になるまで、彼をずっと忘れない事だけだ。

 永松は触れた手を震わせながら、何度も何度も彼の名を呼んだ。