あたしはいつもの様に自転車で登校した。クラスでは昨日のことが早くも噂になっていた。

「亜優、海翔先輩と付き合う事になったって本当?」

 嘘ついても意味はないから、あたしは昨日の出来事をクラスの皆に全て話した。

「亜優が羨ましいよ。海翔先輩に目を付けられるなんて……」

 あたしにとっては迷惑でしかない。だって……あたしが好きなのは玲司先輩だから。

 昨日の帰りに海翔先輩は『明日の朝、迎えに来るから、それまで待ってろよ』と言っていた。

 だけど玲司先輩に誤解されてたくなくて……あたしは、海翔先輩を待たずに先に家を出てしまった。

 きっと海翔先輩から怒られるだろうな。だけど……それを覚悟で待たず先に学校に来たんだから……別に構わない。教室で皆と談笑していた時だった。

「おい、水口亜優」という声が聞こえて来た。

 予想通り、海翔先輩があたしの教室にやって来た。

「ちょっと話がある。俺について来い」

 何の話かは想像がつく。海翔先輩に連れて来られたのは、立ち入り禁止になっているはずの屋上。海翔先輩は、何故か屋上の鍵を持っていた。

「お前さ……昨日、あれだけ待ってろって言ったじゃん。なんで先に来たんだよ?」

「それは先輩が勝手に決めたことです」

「言ったはずだ、お前には拒否権はないって」

 海翔先輩は、こっちに近付いて来た。いかにも、キスをしそうな距離まで近付いてきた。

 海翔先輩のドアップに……あたしは不覚にもドキッとしてしまった。だけど海翔先輩は何もせずに後退りした。