雨は本降りになっていて、自転車で帰るのは難しい気がする。あたしは海翔先輩の教室に足を運んだ。
「海翔先輩、早く帰りましょう」
「亜優、傘持ってるか?」
「はい、折りたたみ傘なら持ってますよ」
「じゃあ帰ろう。でも……この雨じゃ自転車は置いて帰るようだな」
「そうですね……」
「まぁ……お前とくっついて帰れるからラッキーだけど」
「もう……何言っているんですか」
口ではさりげなく嫌そうなことを言ったけど、でも……本当はあたしも海翔先輩と同じ気持ちだった。
そして海翔先輩と相合い傘で帰ることになった。ずっと、憧れていた好きな人との相合い傘。歩いていると次第に雨は小降りになってきた。
そして空に虹が現れた。今が最大のチャンスだ。
「海翔先輩、あたし海翔先輩のことが好きです」
「やっと言ってくれたな」
「昔のことは分からないけど……あの時、海翔先輩に出会ったのは偶然じゃなく、必然だったと思う」
「そうだな……あれはわざとだったんだから。亜優の記憶が無くなっていたなんて知らなかったから……悪いことしたなって思ってる」
「もう気にしてません。第一印象は最悪でした。でも、気付いたら好きになってました。勉強も手に付かないくらい、海翔先輩のことばかり考えてました」
やっと言えた……雨上がりの虹の空の下、あたしは、海翔先輩から優しくキスをされた。
あたしにとって……ファーストキスはレモンの味がした。何故かと言うと海翔先輩がレモン味のキャンディを食べ終えたばかりだから。
「海翔、大好き」
あたしは、思い切って勇気を出して“海翔”って呼んでみた。
「俺はずっと亜優が海翔って呼んでくれるのを待っていた。やっと呼んでくれたな」
海翔にはあたし達が幼馴染みの頃の記憶がある。でもあたしには、幼馴染みだった頃の記憶は無い。
海翔が無理に思い出す必要は無いって、言ってくれたのは嬉しかった。それにあたしが好きになったは――今の海翔だから。
そしてあたし達はもう一度、唇がふれ合いだけの軽いキスを交わした。