海翔先輩と一葉先輩……二人の会話の内容を、花帆には話せない。花帆じゃなくても……誰にも、きっと話せない。
「亜優……ちょっと話したいんだけどいいかな?」
あたしを呼んだのは海翔先輩の親衛隊の一員の梨花だった。
「うん、大丈夫だよ」
「海翔先輩は亜優のこと本気で好きなんだよ。親衛隊の皆はそれを知った上で遊んでいたんだ」
「何……それ」
「海翔先輩からは亜優には絶対に言うなって言われてたんだけどさ……。去年、亜優が入学した時から好きだったらしいよ。亜優に自分のことを知ってもらう為に、あんなことをしてただけなの」
あたしは何も言葉が出て来なかった。よく諺で言う『開いた口が塞がらない』状態になってしまった。梨花は話を続けた。
「つまり……海翔先輩って本当は遊び人じゃなくて、凄く一途な人なんだよ」
「梨花、海翔先輩は親衛隊は解散したって言ってたけど……本当なの?」
「うん……本当だよ。親衛隊だった人達は誰も亜優に危害を加えようんて、思ってないから安心していいよ。だから……亜優には海翔先輩と付き合って欲しい」
「梨花……色々と教えてくれてありがとう」
海翔先輩が1年も前からあたしのことを見てくれていたなんて……嬉しくなった。
放課後になり、あたしは海翔先輩が迎えにくるのを待っていた。
だけどトイレに行きたくなったので、あたしは教室を離れた。教室に戻る途中で……海翔先輩が知らない女の子に告白されている姿を目撃した。
『私は海翔先輩のこと本気で好きなんです。どうして、私じゃ駄目なんですか?』
『俺は亜優が好きなんだよ。他の女の子は考えられない』
海翔先輩は告白を断っていたけど……あたしは海翔先輩が他の女の子と話しているのが嫌だった。
いつもあたしに見せてくれる笑顔で、海翔先輩が告白を断っているのを見たら胸が締め付けられた。
海翔先輩……お願いだから、あたし以外の女の子に、その笑顔を見せないでと……心からそう思った。あたしは海翔先輩に気付かれないように教室に戻った。
教室には花帆がいたので今の気持ちを吐き出した。
「亜優……それは間違いなく恋だね。亜優が今、持っている感情は嫉妬だよ」
嫉妬?ヤキモチを妬いたってこと?あたし海翔先輩に“恋”をしたんだ。
たぶん……ではなく海翔先輩のことを、いつのまにか好きになっていたんだ。