紗綾樺さんの部屋を後にすると、一気に夜の寒さを感じ寂しさが心の中を吹き荒れた。
 食事が終わるとすぐに紗綾樺さんは奥の部屋に引きこもってしまったので、最後に顔を見ることが出来なかったけど、自分としては満足のいく時間だった。
 もちろん、心からの愛の告白が『友達』認定で終わってしまったことは残念だったけれど、それでも今まで見たいに自分から愛の告白もしないで、宗嗣さんの前で恋人面するのよりは、ちゃんと告白して、正式にお友達になった事できっちりスタートラインに立てたことは間違いない。今まで見たいな、スタートライン手前から裏道を通ってゴール手前にでたような引け目を感じる必要はなくなったわけだし、宗嗣さんのカレーも美味しかった。
 待てよ、最後のはおかしいな。紗綾樺さんの手料理なら嬉しいはありだけど、宗嗣さんの手料理が美味しいで喜んでるのは変か。
 でも、留守中に上がり込んだのに、温かく迎えてくれて、食事までご馳走してくれた。交際だって、すぐに認めてくれたし、かなり寛大なお兄さんだよな。
 宗嗣さんの話だと、ご両親はなくなっているから、結婚となると、宗嗣さんの許可がいるわけだし、そうなると今からいい関係を保つことは大切だ。
 そこまで考えてから、僕は自分の考えがどんどんエスカレートしているのに気付いた。
 今日、ふりだしに戻って友達になったばかりなのに、結婚だなんて。あー、あの先輩三人組に完全に毒されてるな。何が恋せよ青年、でも早まるな結婚だよ。結婚なんて、まだ先の先の先。友達から始めると、友達以上恋人未満、それから、恋人、結婚なんてその次じゃないか。
 でも、紗綾樺さんが相手なら、何年かかってもいい。僕はいつまでも待てる。
 さっきまで寒かった心が温かくなり、僕は駅への道を早足で進んでいった。