『女の子だって、自立出来ないといけない時代なんだから』と言うのが母の口癖だった。それは、家から通える高校の方が良いと、中学の担任が薦めた進学高校を受験せず、いわゆる『並』で『平凡』な高校を選んだ私の決断を嘆く母の口癖だった。
『家の手伝いができるから』なんて理由ではなく、『制服が気に入ったとか』、『好きな先輩がいる』とか、母が納得しやすい理由を考えるべきだったのに、うっかり口を滑らせて言ってしまったのだから仕方ない。それでも、父は『どこの高校に行っても最後は本人の努力次第だよ』と味方になってくれた。
高校の入学式の後、ずいぶんしばらくぶりに家族揃って写真を撮った。『何も、わざわざ写真館で撮らなくても、どうせ成人式にはもっと仰々しいものを撮るのに。やっぱり女の子は待遇が違うねぇ~』と、お兄ちゃんは冗談めかして言いながらも、写真撮影に付き合ってくれた。そして、その日は珍しく家族で外食をした。忙しいお兄ちゃんは、写真撮影のために仕事を抜けて来て一度仕事に戻り、夕方になって再集合して家族全員で食事をした。
地元ではちょっと有名なそのレストランでは、他にもお祝いする家族が多く、父は久しぶりにあった同級生と話が弾み、私とお兄ちゃんは両親より一足早く家路についた。『入学二日目から遅刻なんてしたら、クラスのはみ出しものになっちゃうから』と言うと、お兄ちゃんは『二日目から堂々と遅刻なんて、一目置かれるかもしれないぞ』と冗談めかしながら、二人で家路についた。
家に帰り、翌日の支度も終え、そろそろお風呂に入って寝ようかとお兄ちゃんと話しをしていると家の電話が鳴った。
最近、家の電話が鳴るのはセールス関係の電話ばかりだったし、こんな遅い時間に電話がかかってくるのは不自然だったので、お兄ちゃんが進んで電話に出た。
「もしもし?」
こちらから名乗らないのは、詐欺対策のためだ。しかし、電話にでたお兄ちゃんの顔から血の気が引き、見る間に蒼白になって行った。
「お兄ちゃん?」
声をかけてもお兄ちゃんは私の方を向こうともせず、『わかりました。すぐに伺います。』とだけ言うと電話を切った。
「お兄ちゃん?」
首をかしげて問いかける私をお兄ちゃんは無言で抱きしめた。
突然のことに驚いてお兄ちゃんを見上げると、絞り出すように『父さん達が事故に遭った』と、お兄ちゃんはいった。
「事故? どこの病院? けがは?」
問いつめる私にお兄ちゃんは、ただただ頭を横に振った。
「お兄ちゃん?」
「警察が遺体の確認に・・・・・・」
お兄ちゃんの言葉は、最後まで聞き取れなかった。まるで、蝉が耳の中で鳴いているような音にかき消され、何も聞こえなくなっていき、私は意識を失った。
目が覚めると、私は一人で部屋に寝かされていた。
起き上がった私は『リアルすぎる悪夢』だと思って深呼吸した。しかし、私の枕元には『一人で確認に行くから、家で待っていてくれ』というお兄ちゃんの手書きのメモもが残されており、すべてが悪夢ではなく現実だったことを教えてくれた。
私はすぐにお兄ちゃんの携帯に電話をかけた。
五回ほど鳴った後、兄がやっと電話にでた。
「いま詳しい話を聞いて、これから帰るから。お前は絶対外に出ないで、家で待ってろ」
お兄ちゃんの声は、聞いている私の方が泣き出しそうなくらい震えていて、弱々しく、私は『わかった』とだけ答えた。
☆☆☆
『家の手伝いができるから』なんて理由ではなく、『制服が気に入ったとか』、『好きな先輩がいる』とか、母が納得しやすい理由を考えるべきだったのに、うっかり口を滑らせて言ってしまったのだから仕方ない。それでも、父は『どこの高校に行っても最後は本人の努力次第だよ』と味方になってくれた。
高校の入学式の後、ずいぶんしばらくぶりに家族揃って写真を撮った。『何も、わざわざ写真館で撮らなくても、どうせ成人式にはもっと仰々しいものを撮るのに。やっぱり女の子は待遇が違うねぇ~』と、お兄ちゃんは冗談めかして言いながらも、写真撮影に付き合ってくれた。そして、その日は珍しく家族で外食をした。忙しいお兄ちゃんは、写真撮影のために仕事を抜けて来て一度仕事に戻り、夕方になって再集合して家族全員で食事をした。
地元ではちょっと有名なそのレストランでは、他にもお祝いする家族が多く、父は久しぶりにあった同級生と話が弾み、私とお兄ちゃんは両親より一足早く家路についた。『入学二日目から遅刻なんてしたら、クラスのはみ出しものになっちゃうから』と言うと、お兄ちゃんは『二日目から堂々と遅刻なんて、一目置かれるかもしれないぞ』と冗談めかしながら、二人で家路についた。
家に帰り、翌日の支度も終え、そろそろお風呂に入って寝ようかとお兄ちゃんと話しをしていると家の電話が鳴った。
最近、家の電話が鳴るのはセールス関係の電話ばかりだったし、こんな遅い時間に電話がかかってくるのは不自然だったので、お兄ちゃんが進んで電話に出た。
「もしもし?」
こちらから名乗らないのは、詐欺対策のためだ。しかし、電話にでたお兄ちゃんの顔から血の気が引き、見る間に蒼白になって行った。
「お兄ちゃん?」
声をかけてもお兄ちゃんは私の方を向こうともせず、『わかりました。すぐに伺います。』とだけ言うと電話を切った。
「お兄ちゃん?」
首をかしげて問いかける私をお兄ちゃんは無言で抱きしめた。
突然のことに驚いてお兄ちゃんを見上げると、絞り出すように『父さん達が事故に遭った』と、お兄ちゃんはいった。
「事故? どこの病院? けがは?」
問いつめる私にお兄ちゃんは、ただただ頭を横に振った。
「お兄ちゃん?」
「警察が遺体の確認に・・・・・・」
お兄ちゃんの言葉は、最後まで聞き取れなかった。まるで、蝉が耳の中で鳴いているような音にかき消され、何も聞こえなくなっていき、私は意識を失った。
目が覚めると、私は一人で部屋に寝かされていた。
起き上がった私は『リアルすぎる悪夢』だと思って深呼吸した。しかし、私の枕元には『一人で確認に行くから、家で待っていてくれ』というお兄ちゃんの手書きのメモもが残されており、すべてが悪夢ではなく現実だったことを教えてくれた。
私はすぐにお兄ちゃんの携帯に電話をかけた。
五回ほど鳴った後、兄がやっと電話にでた。
「いま詳しい話を聞いて、これから帰るから。お前は絶対外に出ないで、家で待ってろ」
お兄ちゃんの声は、聞いている私の方が泣き出しそうなくらい震えていて、弱々しく、私は『わかった』とだけ答えた。
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