ファミレスに入った紗綾樺さんは、昨日と同じくクラブハウスサンドイッチとオニオングラタンスープを注文した。確かに、僕の財布には優しかったが、なんだか僕は好きな人に窮屈な思いをさせているような肩身の狭い気分になった。
「あの、デザートとか、スイーツもいかがですか?」
 僕は、女性が好きそうな色とりどりのデザートの写真で埋め尽くされたメニューを紗綾樺さんに手渡そうとした。
「大丈夫です。どれを食べたらいいかわからないので」
 紗綾樺さんの返事は、女の子の返事というよりも、男子の返事のようだった。
「甘いもの、お嫌いですか?」
「そういうわけじゃないんです。ただ、どれを食べたらいいのかわからないんです。いつもは、兄が適当に頼んでくれるので」
 こんなところまでお兄さん任せなんだ。
「写真を見たら、ピンと来ませんか?」
「ピンとですか?」
 紗綾樺さんは、首を傾げながら、メニューを受け取った。
 そして、見ている方がおかしくなるくらい真剣にメニューの写真を見つめ続けた。
 結局、ウェイトレスがスープを運んでくるまで、じっとメニューを見つめ続けたものの、紗綾樺さんは首を横に振ってメニューを片付けてしまった。
「いただきます」
 紗綾樺さんはオーブンから出てきたばっかりのスープに嬉しそうに取り掛かった。
 伸びるチーズを器用にスプーンで手繰り、紗綾樺さんは幸せそうにスープを平らげた。そして、運ばれてきたサンドイッチに取り掛かる様子は、まるで子供ように可愛かった。
「お兄さん、心配していらっしゃいますね」
 ふと壁の時計が目に入り、僕は思わず口にした。
「きっと、またスマホで居場所を調べてますよね」
 僕は口にしてから一瞬で青ざめた。
 そうだ、あのカラオケの場所は位置情報に正しく表示されていたのだろうか?
 もし、裏のいかがわしい場所が表示されていたら大変なことになる。なんてバカだったんだ、あのカラオケを選んだときは紗綾樺さんのお兄さんが居場所を調べることをすっかり忘れていたなんて。痛恨のミスだ!
 頭を抱えなくなりながらも、僕は必死で言い訳を考えた。

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