ルビコン

「どうする樹々。もう帰らない?」

「えーせっかくここまでは来たのに?ってか茜の演奏聞きたかった」

だからそれについては知らない。
あと話を戻さないで。

電車で帰っても、家から最寄りの駅に着くのは夜になっているだろう。
仮にこの周辺で遊ぼうなんて思っても、買い物やゲームセンターのような娯楽施設も無さそうだ。

何よりお金がない。
それに疲れた。お腹が空いた。

朝から言っている気がするが、早く帰りたい。

でも樹々は私の意見を否定してくる。
「じゃあさ、シロさんのカフェ行こうよ!今日の茜の話聞きたいし」

「めんどくさい」

私らしい言葉で一蹴された樹々は、リスのように頬を膨らませた。
ちょっと傷付けてしまったかな?

だけど友達が何を言おと食い下がるのが、松川樹々という欲望の塊のような女の子だ。
そのメンタル、ある意味尊敬する。

「えー、今がいい。こう見えてあたしも実は今日の説明会で進展あったんだよ。だからそれも合わせて!」

「へぇー」

「へぇーじゃなくて」

その説明会の話は少しだけ興味があった。
最近の樹々は『将来が不安だ』とか、進路指導部の先生の愚直しか聞いていないし。

その不安や愚痴が解消されるなら、他人に興味のない私だって聞きたい。

「じゃあいいよ。行く」

私がそう答えると樹々は驚いた表情を見せた。
意外な私の言葉に、樹々のテンションが上がる。

「やったぁ!じゃあすぐ電車乗ろ。あと五分で出るみたいだし」

「ちょ、腕引っ張らないで!」

車は来てないが、信号は止まれの赤。
なのに樹々は、私の腕を引っ張りながら赤信号を渡る。

って・・・・捕まっちゃうよ?

もう!