『コンサートホールに着いた!まだコンサートやってる?』

その思わず笑ってしまいそうな目の前の樹々からのメールに、私はすぐに返事を返した。
少し笑みを溢しながらメールを作っていく。

『目の前の人に聞いて』

彼女に声を掛ければ、こんなやり取りもやらなくていい。
正直言ってちょっとめんどくさいし。

でも大勢の人の中で叫ぶ勇気なんて、私には備え持ってない。
昔から私は明るい子供じゃなかったし。

少しの間を置いてから、樹々の携帯電話にメールが届いたようだ。
樹々は一瞬だけ驚いた表情を見せると、ようやく私には気付いた。

同時に信号が青に変わるから、樹々は嬉しそうに私がいる元へと走ってきた。

近くで樹々を見て最初に出てきたのは、『可愛い』と言う言葉だった。
茶髪で薄いメイクをしていた数日前と比べて、見た目は全くの別人だった。

何て言うか、ただの幼い顔をした中学生と言うか。
元はスッゴく可愛いのに、なんで余計なことしちゃうのかな?

そんな樹々は慌てて私に再び問い掛ける。

「茜!荷物持ってここに居るってことは、もう終わっちゃった?」

「終わっちゃったね、残念ながら」

私の声を聞いた樹々は肩を落とした。
せっかくここまで来たのに、もの凄く残念そうな表情。

一方の私は驚いていた。
樹々の今の変わり果てた姿もあるが、その前にどうしてこんな所に樹々が来ているのか理解できなかった。

『企業説明会がある』と言っていたのに。
というか『来る』なんて一言も聞いてない。