「和楽器らしく、和を象徴したカッコいい演奏。そして演奏者みんなの笑顔を見て楽しくなっちゃいました。さて楽しい時間もあと一曲でお別れになります。最後に演奏してくれますのは、数ヶ月に行われた日本ピアノコンクールで高校生ながら入賞した『天才ピアノ少女』の登場です。日本のピアノ業界に大きな旋風を巻き起こしてくれたあの大石春茶氏がピアノ講師として初めて指導した愛弟子。ピアノを初めてまだ五年生と浅いですが、その演奏は心を引き寄せるモノがあります。それでは最後の曲を聴いてみましょう。今回はご自身が大好きな作曲家、『K・K』の曲から。桑原茜で、『robbia』です」

再びスポットライトと共に、司会の女性が消えていく。
そして舞台の明かりが照される。

その舞台には柴田アランも演奏した黒いグランドピアノ。
そしてそのグランドピアノの前には、真っ赤なドレスを纏った桑原茜の姿。

私はゆっくりと椅子に腰かける。

楽譜はない。
というか必要ない。

『robbia』

その曲は私が産まれて初めて演奏した曲だ。
大好きな作曲家、『K・K』が生み出した有名な曲。

何度も練習して、染み込むまで覚えた私が大好きな曲。
メロディーが好きなのも勿論あるが、私はその曲名に親近感が沸いたのだ。
『robbia』は『K・K』の出身地でもあるイタリアの言葉。

そしてそれを日本語に訳すと『茜』。
私と同じ名前だ。決して『自分自身が好き』とかそう言う訳じゃないが、何だが嬉しかった。

ただそれだけ。

私は大きく深呼吸。
そして目を瞑りながら鍵盤に手を触れると、小さく深呼吸。

・・・・・。