私はこの兄と父の会話の内容は聞いていない。
疲れて電気も付けずに制服のままで寝てしまったから、二人が影でこんなことを話していたと知るのは、年が明けた一月のこと。

それまでは本当に何にも知らない。

・・・・・・・。

本当に知らなかった。

どうして父が『母』のことを隠すのか。

どうして、私がピアノを弾いているのか。

そして、『どうして春茶先生が私にピアノを教えてくれるのか』今の私には何一つ分からなかった。

あの、最悪な日までは・・・・・。









【おわり】