「そういやこの前に葵と会った。何て言うかアイツ、スッゲー勉強出来ない馬鹿だっただろ?だから希望の高校に受からなかったんだ。一緒の高校行こうって約束したのによ。アイツとは違う高校になってしまった」

「そう、なんだ」

暗い私の声を気にせず、愛藍は続ける。

「葵さあ、ストリートダンスを習っていてかなり上手いんだ。『ダンスで天下取る』ってアイツも言っていたけど、怪我してしまってよ。下手すら再起不能らしいぜ」

「そう、なんだ」

突然気分が悪くなってきた。
どうしてだろう。

もうすぐ本番なのに。

「だから葵、仕方なく実家の花屋継ぐって言ってたぜ。『花なんて興味がない』って言っていたくせによ。花の事になると、目の色が変わるって言うか、本当にワケの分からない奴だったよな」

「うん・・・・」

ヤバイ、吐きそう。
頭も殴られたように痛む。

一方の愛藍は私の異変に気が付く。
多分私が曖昧な返事ばっかりしていたから疑問に思ったのだろう。

「おい、大丈夫か?つかなんでそんなに声が震えてるんだよ。葵の話だぞ。興味がないのかよ?」

どうして愛藍は私に話しかけて来ているんだろう。

どうして愛藍は嬉しそうな顔をしているんだろう。

・・・・・・。

私のことを、あの頃のようにからかっているから?

それに比べて今の私は、どんな表情をしてるんだろうか。

愛藍が傷付くような表情を浮かべているんだろうか。

あの時、いじめられていた時と同じ表情なのだろうか。

結局私は何も答えられなかったから、再び沈黙が流れる。
同時に私は下を向いて、再び自分の携帯電話を見つめる。

特に意味はない。
気分が動揺していたため、無意識の行動だ。

一方の愛藍は私を見ている。

でもその目は泳いでいた。
私を見てはすぐに目を逸らし落ち着きがない。

そんな愛藍だったが、彼は小さな息を一つ吐く。

そして本題に入ったようだった。
私に近付いて来た理由を、彼は私の目を見て話す。