「あの時茜の声を聞いていれば、こんなことにはならなかった。お前をいじめずに、俺がお前と話し合えば絶対にこんなことにはからなかった」

そう言った葵は私を抱き締める手を離す。
そして涙を溢しながら、葵は呟く。

「だから、ごめんなさい。一人にして、置いてしまって、本当にごめんなさい」

その葵の言葉に、私は言葉を失った。
言葉の変わりに出てくるのは、私の涙。

葵同様に大粒の涙を流して、私は葵の優しい瞳を見つめていた。

本当に七年前と全く変わらない葵の瞳。

それが何だかまた辛く感じて、私は葵の胸に再び飛び込んだ。
大好きな人の胸に飛び込んだ。

そして私も七年越しの疑問を問い掛ける・・・・。

「な、なんで・・・・なんであの時あんな顔したの?なんで七年前、あの時の葵は笑ったの?『茜のせいだ』と言って、笑ったの?」

それは七年前のこと。
ウサギにナズナを与えた翌日の日のこと。

ホームルーム後に、私と葵は校長と黒沼に応接室に呼ばれた。
校長の言葉に何も答えない私達に黒沼は威圧を与え、怯えた葵は『茜のせいだ』と言って応接室から逃げて行ったあの時のことだ。

そしてその時に葵が私に見せた葵の顔。
笑ったような、まるで『ざまあみろ』と言っているような不気味な表情。

それが応接室から出ていく葵の顔だった。
二度と思い出したくなかった、大好きな親友の不気味な笑顔。

その私の疑問に、葵はすぐに答えてくれた。
七年前の私達の関係が完全に壊れた時の本音を語ってくれる・・・・・。

「お前を、助けるためだ」

・・・・・・。

・・・・・・・・?

私を助ける・・・?

「意味が分からない・・・・」

そう小さく呟く私から葵は目を逸らすと、小さな笑みを見せる。

同時に葵もその日の出来事を思い出したのか、彼は悔しそうな横顔を見せた。

「だよな。自分でもよく分からないよ。自分で茜を蹴落として、あの頃は本当に何がしたかったのかよく分からない」

それが葵の当時の答えだと私は感じたが、葵の言葉はまだ続く。
『信じてほしい』と言うように、葵は力ある視線で私を見つめた。

「でもさ、これだけは言わせてくれ。『今さら何言ってるんだ?』って言われるけど、俺は茜を助けるつもりだった。校長と黒沼に怒られたお前を、励ますつもりだったんだ。でもお前にも裏切られたから・・・・・」

・・・・・・・・?