「葵は・・・・私が嫌い?」

「嫌いじゃねぇーよ!むしろ好きって言うか」

葵は即答だった。
少し顔を赤く染めて彼は答えた。

私も続く。

「どれくらい?」

「どれくらいって、多分ここにいるみんなより茜が好きだ」

葵は私の言葉を待つことなく問い掛ける。

「そういう茜はどうなんだよ?俺のことは嫌い・・・・・だよな。散々酷いことしてきたし」

私は首を大きく横に振って否定する。
そしてそれを証明するように、葵の優しい瞳を見つめる。

「そんなことない!私も葵のことが大好き!最近はずっと葵の事を思っているし。と言うか、その件に関しては私が悪いし・・・・」

私は一度後ろを振り返る。
みんなは本当にカフェに戻ったのか、樹々達の姿はなかった。

でも『温もり』はあった。
まるで遠くから『頑張れ』と言っているような温もりを感じると、私は再び葵に視線を戻す。

そして葵に頭を深々と下げる。

「だから、ごめんなさい。私が変なこと言わなかったら、こんなことにならなかったし・・・・」

葵は疑問に感じたのか、一瞬だけ首をかしげた。
そして『それは違う』と言っているように、葵は申し訳なさそうな表情を私に見せる。

「なんで茜が謝るんだよ。お前は何も悪いことしてないだろうが。それを言うなら、俺の方が悪いし」

葵は一呼吸置くと続ける。
覚悟を決めたような真剣な眼差しと共に、私より深く頭を下げる。

「茜、ごめん。本当にごめんなさい。俺が茜を見捨てなかったら、こんなことにならなかったと思うし。裏切って、本当にごめん!」

その言葉に私は顔を上げると同時に疑問を抱く。

だって、葵が悪いと言う理由がイマイチ分からないし。
私に頭を下げている葵だけど、その行動が私にはよく分からない。

「悪いのは私だよ?葵は全然悪くないし」

私がそう言うと葵は顔を上げる。
『コイツさっきから何言っているんだ?』と私に文句がありそうな苦笑いを浮かべて、葵は私の瞳を見つめる。

と言うかその苦笑い、紗季がよく見せる苦笑いに良く似ている気がする。
『なんでそんなことも分からないの?』って言っているような、暖かさと冷たさの両方を感じる苦笑い・・・・・

「いやいやいやいやいや。俺はお前を意地めていたし。相手に嫌なことをさせたら謝るのは普通だし。と言うか、なんでこの流れでそうなる?やっぱりお前、無能で馬鹿?」

その言葉に苛立ちを感じた私は、『無能で馬鹿はそっちだ』と言わんばかりに葵に反論する。
愛藍と初めて過去の話をしたときのように、私は大きな声で反論する。

「葵も馬鹿言うな!私が悪いから謝ってるの!何度も言わせないで!」

「って言われてもなあ・・・・。悪いのは俺だし。いや・・・って言うか普通に考えて『茜が悪い』っていう理由がないし。百人に投票したら、満場一致で俺が悪いに票が入ると思うし」

私の言葉を理解してくれない葵に、私は更に苛立ちを感じた。
『この馬鹿を納得させる言葉がないか?』と考えるも、やっぱり馬鹿な私には言葉を操る能力なんてない。

葵を怯ませるような言葉が見つからない。