『ウサギはみんなに惜しまれながらこの世を去った。十二年間、病気や怪我もなく元気に生きていたが、来る日が来てしまった。老衰して終わりを迎えたウサギに、私川島桃花はお疲れさまと言いたい』

その文を読み終えた私は小緑に視線を戻す。
紗季によく似た『私を馬鹿にする表情』が気に入らないが、小緑はまたしても私を馬鹿にする。

紗季そっくりの冷たい視線で、年上の私を馬鹿にする。

「ウサギが死んだ原因、ちゃんと書かれていますよね? 『老衰』って、無能な茜さんに理解できますか?」

老衰・・・・恐らく『老衰死』の事だろう。
だとすれば、それは『寿命で死ぬ』ことを意味する。

制限時間と言う生の終わりを迎えて、人は眠るように息を引き取ることを『老衰死』と言うらしい。

だから小緑の言葉はすぐに分かった。
分かったんだけど、やっぱり納得したくない自分がいる。

納得したくないから言葉が出てこない。

小緑の言う通り、『無能な自分』がいる。

でも無能な私でも、ここで疑問が一つ生まれた。

そしてそれが今の小緑と戦う『言葉の剣』になりそうなんだけど、その『言葉の剣』は呆気なく折られてしまった・・・・。

「『どうして学校側はウサギが老衰死って知らなかった?』って意味を考えているの?相変わらず茜ちゃんらしいね」

まるで私の疑問を覗き込むように、何度も聞いた親友の声が川の方から聞こえた。

振り返ると、そこには腰を下ろして静かに流れる川を眺める橙磨さんの姿がある。
何度も私をからかってくる優しいお兄ちゃんのような声と共に、彼は優しく笑う。

一方の私はまたまた驚いた。
なんでここに橙磨さんもいるのか理解できない。

気配もなかったし、いつからそこに居たのか全然分からない。

そして『本当に目の前の彼は川島橙磨さんなのか?』と言ったような視線を彼に送っていたら、案の定橙磨さんに怒られた。

「人を幽霊みたいな表情で見ないでくれる?まあいいけど。多分桃花も目を覚ましたら、みんなからそんな顔されるんだろうし」

橙磨は呆れた表情と共に立ち上がると、落ちていた小石を川に投げた。
水切りのように小石は何度も水面を跳ねて、川に沈んでいく。

と言うか、やっぱり『桃花』って・・・・・。

「茜ちゃんの通ってきた小学校、数年前から凄く先生の移動が激しかったんだ。殆どの先生は一年か二年で違う学校に転任されるみたいだし。もちろん校長先生や教頭先生もそう。ほら、君も思い当たる節があるんじゃない?」

あると言えばある。
昨日小学校に居た教頭先生は去年に移動してきた先生だし、それに小緑が興味深いベージを見つけたのを私は思い出した。

それは図書室にあった六年生のアルバムの最後ページ。
先生達が卒業生に送るメッセージなんだけど、その先生達はたった一年や二年で大きく変わっていた事を思い出す。

移動が激しい理由は分からないけど、その卒業アルバムを見る限りでは先生達が動いていたのは事実のようだ。
ちなみにこの変化も小緑が見つけた。

橙磨さんは続ける。