「あ、あおい?な、なんでここに?」

そう震えたような声で小さく呟いた茜は、すぐに口元を押さえる。

そして商品の袋を置いて、茜はスーパーから逃げていく。
俺の横を通り過ぎ、茜はスーパーを飛び出して夜の町に消えていく・・・・。

「ってこら!茜!逃げるな!」

その茜の姿を見て、若槻は叫ぶ。
でももう手遅れだと思ったのか、若槻はため息を一つ吐いた。

まるで、『ホントありえない』とでも言うような、心の声が聞こえてきそうな呆れた表情。

逃げる親友の背中を、若槻は頭を抱えながら眺めている。

「追わないのか?」

そんな若槻を見て、俺は問い掛けた。
若槻は驚いたレジの店員に軽く頭を下げると、茜が置いていった商品の入った袋を手に取る。

そして少し怒ったような表情と声で、俺に説教を始めた。

「それはこっちの台詞。あたしが追っても意味ないでしょうがバカ。アンタが追わないと意味ないじゃん。なんで茜が逃げたのか、わかってるの?」

若槻はまたため息を吐くと、俺の持つレジ袋を奪う。
そして俺の背中を押した。

「花菜ちゃんだっけ?とりあえずあたしが預かるから、アンタは早く行って。それで早くあのアホな茜と仲良くしてきてよ。それが今、茜が一番したいことだし。アンタも考えていることは一緒なんでしょ?」

俺の思考を覗いているような若槻の言葉に、俺は小さく頷いた。
俺が思っていることをそのまま言い当てられて、頷くしか選択肢は残されていなかったから。

同時に凄く嬉しかった。
その若槻の言葉に、俺の中の緊張の糸がほどけて行く。

「ありがとう、若槻」

「別に。と言うか、もう絶対に仲直りできるのに。それで仲直りしないとか、ただの馬鹿だし。ただのヘタレだし」

「ヘタレって・・・・・。まあ確かにそうだな。この七年間、茜に接触するチャンスは何度もあったはずだし」

そうだ。
俺はヘタレだ。

謝れば解決するかもしれない問題を、俺は七年間も無視してきた。
就職や高校生生活より大切なことなのに、俺は後回しにしていた。

理由は、やっぱり俺がヘタレだから。

そして茜の存在が怖かったから。
アイツの辛い表情が脳裏に浮かんで、体や思考が硬直してしまうから。

それに正直言って、『どうにかなる』と思っていた。
『時間が経てば、また茜と仲良くなれる』と勘違いしてた。

何もしなくても、また茜と仲直り出来る日がいずれ来るものだと思っていた。

でも現実は甘くない。
俺の『理想』は、ただの『妄想』だった。

何も物事は進まない・・・・・・・。

・・・・・・・。