花菜は自分の父親の顔を写真でしか見たことない。
花菜は自分の父親と、会ったことがない。

理由としては一つ。
八年前、花菜が産まれると同時に父も無くなったから。

娘が産まれて父は急いで病院に向かったというのに、その途中で車に跳ねられた。

即死だった。

八年前と言ったら、俺は茜や愛藍とよく遊んでいた頃だった。
突然の父の死によって、かなり落ち込んでいた俺を二人がいつも支えてくれたっけ。

茜なんか自分も母親が居ないにも関わらず、俺を励ましてくれるし。

・・・・・。

だったら、今度は俺が花菜を励まさないと。
茜や愛藍がしてくれたように、俺が花菜を元気付けないと。

花菜は表向きには笑っているが、心は絶対に辛いはずだ。

昔はいつも俺に『なんで花菜のお父さんはいないの?』って、泣きそうな顔で言っていたし・・・・・。

・・・・・・。

ってか花菜、自分が食べれるものを選びなさい。

「でも寿司のお供え物やめとこうな。多分明日になったら仏壇辺りが凄く臭くなるから」

一応忠告しておこうと花菜に言ってみたが、案の定花菜は何が何だか分からない顔を浮かべている。
小学二年生にはまだ難しい話のようだ。

「えーなんで?」

「生物は早く食べないと臭くなるし。父さんも天国から『臭い』って怒ってくるかもしれないし。何より父さん生物食えなかったし」

「でも花菜が食べたいもん」

「はいはい・・・・」

そう小さく言った俺は、すぐにレジに向かう。
『残った寿司は母さんが食べてくれるだろう』と思いながら、レジで会計を済ませる。

母さんは二人と違って、生物好きだし。
そんなことを思っていたら、『花菜と父ってなんだか似ているな』って思った。
花菜と一緒で生物は嫌いだけど、食べることは大好きだし。

花菜とよく似て俺を励ましてくれるし。

全て半額の惣菜だったからか、我が家の晩御飯は安く済ませそうだ。
何より作る手間も省けたし。

母さんも最近は本当にしんどそうだし。
晩御飯を作りたくない理由が分かる気がするし。

何より父が亡くなってから、母さんは花菜や俺を一人で育ててくれたし・・・・・・。