田舎のスーパーは閉店時間が早い。
お客さんは殆どおらず、店を閉めようと最後の仕事に取り掛かる店員達くらい。

商品も売れ残った野菜や魚介類に肉、そして俺達が買い求めに来た値引きシールの貼られた惣菜が並ぶだけ。

その売れ残った惣菜を俺は適当に選んで、買い物カゴに入れる。

一方で食べることが好きな花菜は、惣菜を見つめて悩んでいた。
どうやら『チキン南蛮』か『串カツ』か迷っているらしい。

そんな中、遠くの野菜売り場から元気な女の子達の会話が聞こえた。
遠回しに『早く帰れ』と言われている悲しげなBGMを吹き飛ばすように、二人の声が響き渡る。

「えー、絶対にこっちだよ!アンタは本当に見る目ないよね?」

「その樹々の情報って信用出来るの?持って帰って、虫が山盛りだったりしたらどうするの?」

「『虫が山盛り』とか言うな!気持ち悪い」

「ってかどれだけ買っていったらいいのかな?城崎さんに聞くの忘れた」

「そんなことも聞いてないの?アンタはあたしと違って、本当に無能だよね?脳みそ付いてるの?」

「あーもう!絶対に許さない!愛藍に相談して、絶対に樹々を凝らしめてやるんだから!」

「おお、怖っ!でも茜も少しは人を頼るようなったんだね」

「うるさい!」
俺にはこの会話はうっすらしか聞こえなかった。
だから詳しい内容はよく分からない。

でも『愛藍』って聞こえた気がする。
あとうっすら『茜』って聞こえた気がする。

・・・・・・気のせいかな?

俺はその二人の表情を確認したかったけど、花菜がずっと惣菜とにらめっこしているから、なかなかこの場から離れなれない。

小緑みたいに居なくなったら流石に嫌だし、花菜だけは離したくないし。

「花菜、決まった?」

「花菜はたこ焼き食べたい」

たこ焼きねえ・・・・・・。

「たこ焼きって売ってないじゃん。早く買って早く帰ろ。母さんも待っているんだろ?」

ワガママな妹を沈めるように、お兄ちゃんらしい言葉を使う似合わない俺。
一方で俺の言葉に花菜は不満げに頬を膨らませると、数少ない惣菜から一つ選んで手に取った。

「じゃあ花菜これがいい」

怒ったような表情で呟く花菜を見て、俺は肩を落とした。

「寿司って・・・・お前食えるのかよ」

それは握り寿司の盛り合わせが入ったパック。
マグロやイカにサーモンやタイなど、『半額』と書かれた惣菜だった。

同時に俺は『刺身や生物が苦手な花菜に食べれるのか?』と疑問に思った。

「食べれなかったらお父さんにお供え物としてあげる」

でも俺の考えをを無視するように、花菜は笑みを見せる。
そして花菜は俺の持つ買い物カゴに惣菜を入れると、また俺に笑みを見せてくれた。

情けないお兄ちゃんを励まそうとする、無邪気で可愛らしい笑み。

一方の俺は無意識に表情が強張ったが、すぐに妹を励ます優しい笑みを見せた。

「そうだな。父さんも喜ぶかもしれないし」