「わかった。早く帰ろ」

俺は荷物もまとめると、自分のリックサックを背負う。

そしてパソコンで作業をする栗原先生に挨拶すると、潤さんを無視して靴に履き替えた。
今は本当に花菜を潤さんに近付けたくない。

『挨拶しろ』と潤さんに怒られてもいいから、本当に花菜を潤さんに意地でも近付けたくない。

お兄ちゃんとして、大切な妹を守らないと。

花菜だけは『悲しみ』という言葉を背負って生きて欲しくないし。

アジトである練習場から外に出ると、辺りは暗かった。
すっかり冬のような寒さに襲われながら、俺と花菜は大きな川に沿って歩く。

同時に川の匂いがする。
磯のような、まるで海に似たような匂い。

そして今日は月が大きいからか、周囲は明るい。
星達も幾千と夜空に広がっていた。

この道を歩いていれば、大きなスーパーが見えてくる。
それとスーパーの先には俺が何度か行ってきた、『白町カフェ』という派手な外装カフェも見えてくる。

茜と再会した、思い出のカフェが見えてくる。

でも今日は定休日だから、カフェも閉まっているのだろう。
派手なイルネーションも、今日は灯っていないのだろう。

そんな事を思っていたら、俺はその店の店長である城崎さんと出会った日々のことを思い出した。
その日は確か今と同じ冬のような寒い日。
友達がいなくて、一人で絶望に満ちたような暗い顔で歩く俺に、城崎さんは声を掛けてきた。

『ウチの美味しい暖かいココアでも飲んでいかない?』って言われたのが始まりだった。

城崎さんは本当に優しい人で、俺の話も聞いてくれる。
くだらない人生の愚痴も、城崎さんは笑顔で俺の話を聞いてくれた。

潤さんや烏羽先生、そして栗原先生とはまた違う暖かさに、俺は何度も救われたっけ。

そして俺はいつの間にか、城崎さんのカフェに通うようになった。
最近は塾やダンスの練習て殆ど行けなかったけど、一時期は本当によく通っていた。

お小遣いの少ない俺に、『出世払いでいいわよ』って言ってくれたっけ。

そういえば『茜もよくカフェに行っている』って紗季に聞いた。
アイツも俺と同じ、城崎さんに悩みを相談しているんだろうか。

茜も人生の愚痴を城崎さんに話しているのだろうか?