「んじゃ、あと一回通しで踊ったら今日の練習は終わりだよ。いい動きだったからその動きでラスト一回。気を閉めていけ」

潤さんは再び音楽プレイヤーからポップな音楽を流すと、真剣な表情で生徒達の動きに注目した。
ちなみにこの音楽の作曲者は俺の隣にいる栗原律先生が作ったもの。

元々ダンスの曲は、有名な動画サイトから著作権関係なしに使っていた。

だが潤さんの『普通の曲じゃ、他の人らと変わらない』という言葉で、作曲家でもありピアノ教室を営む栗原先生に白羽の矢が立った。

なんでも潤さんのお兄さんと栗原先生が高校時代の友達だとか。

噂じゃ目の見えない凄腕のピアニストを二人で奪い合ったとか・・・・・。
そんな凄い人が俺達のためだけに作ってくれた曲に、潤さんは振り付けを考える。
そしてその振り付けに合わせて俺達は羽ばたく。

様々な思いを背中に乗せて、俺達は小さな翼で大きな空を羽ばたく。

その小さな翼で羽ばたく少年少女の名前は『スカイパイレーツ』だ。
俺もその一員で、潤さんや他の仲間達と一緒に翼を広げた。

世界という大空に向かって、俺達は週に三回羽ばたく練習をする。

ちなみにそのスカイパイレーツは烏羽先生がネーミングしてくれた。
『海賊らしく、『優勝』や『勝利』と言う言葉を奪ってこい』って意味もあるらしい。

そして俺のような『悪役の奴等が居ても許されるような場所を作りたかった』って烏羽先生は言っていた。

それを行動で表すように、烏羽先生がスカウトしてくる生徒は殆ど不良ぽい見た目の悪そうな生徒がばかりだし。

烏羽先生に誘われた小緑も、最初は不良少女だと思ったし。
今では世間知らずのよく笑う女の子だけど。

「そういえば小緑は?さっきまでいましたよね?」

「は?」

俺の言葉に、潤さんの口が塞がらなかった。
目を点にして、俺の言葉を理解出来ないでいた。

周囲を振り返っても、小緑の姿はない。
さっきまで彼女も一緒に踊っていたはずなのに、俺のポジションであった中央のセンターポジションに山村小緑の姿がない。

「まあいっか。居ても変わらないし。多分誤魔化せるし」

潤さんは小緑が居ないことにようやく理解したのか、小さくな言葉を呟くと何度か頷いた。

その行動が、俺にはイマイチ理解できない・・・・。

「いやいや、一応『アレ』でもセンターだし。『新リーダー』だし。絶対に誤魔化せないから!」

本当に潤さんはいい加減な性格だと、俺はため息を吐いた。
講師でありながら昔から『他人に興味がない』って言うか・・・・・。

って言うか、マジで小緑はどこに行った?