俺は一つため息を吐いた。茜と仲良くなったら、今度は俺が茜を弄れるのに。
茜のやつ、『最近は色んな人からからかわれている』って愛藍から聞くし。

あの時の復讐するチャンスなのに。

・・・・・・・。

なんで俺、素直になれないんだろう。
アイツに一言謝れば、何もかも収まる話なのに。

「まあでも、茜ちゃんが心を閉ざしてしまったのは、葵くんのせいでもないからね。昔からあの子、『人が苦手』って言うか。心を閉ざしてしまったのは、葵くんと出会うもっと前の出来事が原因だから」

栗原先生の言葉に、俺は首を傾げる。
同時に理解出来ない。

「昔から?どういう事ですか?」

「言葉通りだよ。まあでもちょっと複雑過ぎて、今は言えないかな。それに茜ちゃん、お母さんのために必死にピアノを弾いているし」

「お母さん?」

・・・・・・・はい?

ってあれ?アイツ、『お母さんはいない』って昔言っていなかったっけ?

・・・・・・。

待って、マジで栗原先生の言葉に付いていけない。
混乱する俺を置いて、栗原先生は続ける。

「ちょっと喋りすぎたかな。まあでも、今の葵くんがそんなに悩む必要なんてないよ。茜ちゃんが頑張っているように、葵くんも茜ちゃんと仲良くなれることを考えていればいいからさ」

また俺に笑顔を見せてくれる栗原先生。
何て言うか、『本当にこの人の言葉は信用出来る』って言うか。

まるで栗原先生のすぐ側に茜がいるみたいだ。
何より俺の知らない茜を知っている人だし。

「はい」

あまり大きな声ではないが、俺は栗原先生に返事を返す。

そして不思議と元気が出た。
『頑張ろう』と思えた。

もう俺も迷っていられないし。

何より早くアイツに謝って、残りの高校生活も楽しみたい。

「ファイトだぜ葵きゅん。お前なら出来る」

潤さんは背伸びしながら俺の頭を撫でると、生徒達の元へ向かう。

同時に音楽が止まって、潤さんは自分に注目を集めるように手を二回叩いた。

ってかなんで頭撫でた?