この町に流れる川のすぐそばに、『スカイパイレーツのアジト』と言う名の練習場がある。
小さな翼を使って広い大空を羽ばたく練習を月曜日と木曜日と土曜日の週三回練習する。

そしてそのスカイパイレーツをまとめるのは、まだ二十二歳の若い女の人だった。
彼女は子供達にダンスを教えるのと同時に、彼女もまた凄いダンサーだったりする。

何でも彼女が投稿したダンス動画は一千万回の再生がされたとか・・・・。

そんな彼女の潤さん。
本名は木下潤子(キノシタ ジュンコ)。

おっとりした人で、とても変わった人だ。
何を考えているのか分からないし、常にマイペースな人。

それと色々とおかしい人。

そんな潤さんが俺、『江島葵(エノシマ アオイ)』を哀れな目で見ている。
可哀想な目で俺を見下ろしている・・・・・・。

「んで、引退したのに来たんっすか?暇なんっすか?友達いないっすか?」

心をえぐられた俺は、苦しい表情と共に答える・・・・・。

「ま、まあそうっすね・・・・。あと心をえぐるようなことは言わないでもらえますか?潤さん」

ダンススクールの練習場。
その見学席で俺は後輩達のダンスを見学していた。

一昨日の晴れ舞台から引退した俺は『もう来る必要のない場所』なんだけど、また来てしまった。

だって小学生からずっと通っていた場所だし。
練習日じゃなくても、潤さんとずっと一緒に踊っていたし。

俺には友達はいない。
強いていうなら柴田愛藍と、小学校と中学校とよく話した山村紗季くらいだ。

あと今ではすっかり疎遠になってしまった桑原茜くらい・・・・・。

クラスメイトの顔を俺は見ることが出来ない。
そしてそんな俺に、放課後に遊んでくれるクラスメイトなんていない。

女からは何度か声を掛けられた事はあるけど、茜以外に興味のない俺は全て断っているし。

だから俺にとってはここはアジトだ。
俺の心を癒してくれる居心地のいい場所。

どんなに辛くても、俺に『明日を頑張ろう』って勇気づけてくれる仲間がいる最高の場所だ。

本当に大好きな場所・・・・・。

二時間に及ぶ練習も終盤。
すっかり見慣れた後輩達は、音楽に合わせて華麗なダンスを見せてくれる。

潤さんがいつも言う『笑顔で踊れ』と言う言葉を忠実に守りながら、少年少女達は躍り続ける。

でもそれがまた俺の心を痛め付けるのも事実・・・・・。

「葵きゅんもまた踊りたいんでしょ?だったらまた踊ればいいじゃん。手術してでもさ」

まるで俺の心を読んでいたかのような潤さんの言葉に、俺は思わず目を逸らしてしまった。
でも俺は一呼吸置くと反論する。

「金はウチにはないっすよ。母さんも夜中の仕事始めるとか言っているし。どこにそんな大金があるんっすか?」

そんな俺に抵抗するように、潤さんは無言で俺に一枚の紙を渡した。
難しそうな漢字が並ぶ難しそうな文書。

「ってなんですか?これ?」

俺の言葉に、潤さんはすぐに答えてくれた。

「高額療養費制度。簡単に言ったら、医療品が安くなる制度。詳しいことは自分で調べて」

「はぁ・・・・」

って言われても、イマイチピンと来ない俺。
安くなるって言っても、安くなった後も高額と思うし。

結局は無理だ。