ルビコン

「あっそうだ、シロさん。レタスとトマトがもう使いきったんですけど。最初からあんまり無かったですし」

「あーホント?明日のサンドイッチで使うから、買ってこないといけないわね」

その時、私は城崎さんと目が合う。

同時に城崎さんは笑う。
まるで『君に決めた』と言っているような、優しい笑顔。

「茜ちゃん、申し訳ないけど買ってきてくれない?」

断る理由もない私は、すぐに頷いた。
それに今は暇だし。

「はい、分かりました」

私は席から立ち上がると、レジに向かう城崎さんを追う。
そして『レシートを貰ってきてね』という言葉をと共に、城崎さんは私にお金を渡す。

「茜が行くならあたしも行く。流石にもう暗いし。茜一人じゃ迷子になっちゃうしね」

迷子って、買い出しに行くスーパーは歩いて五分程度の場所だ。

またこのバカ樹々は私を挑発しているのだろうか?

「そう、じゃあ二人で買いに行ってくれる?」

城崎さんの言葉に、私は渋々頷く。

一方の樹々は笑顔で私の元まで駆け寄ってきた。
黙っていれば可愛いのに。

勿体無い。

そんな樹々を私は睨みつける。

「何で樹々は私を馬鹿にするの?」

「なんでって・・・・、茜が好きだからに決まってるじゃん」

「性的に?」

「アホか!」

馬鹿な会話をしながら、私達は店から出る。
外はもう真っ暗で、町の街灯も照らし始めた。

何より不気味だ。
確かに一人じゃ怖かったかも。

灰根という不良に目を付けられているかもしれないし。

「おう、どこ行くんだ?」

そんな中、いつのにか店から出ている愛藍に声を掛けられた。
電話をしていたのだろうか?

彼は携帯電話を握りしめている。

「スーパー。行く?」

誘ってみたが、愛藍の表情は嫌がっていた。
原因は間違いなくコイツだ。

「いやだ。コイツもコイツで方向音痴っぽいし」

私は『余計なことを言うな』と樹々を睨んだが、愛藍の表情は疲れていた。
どうやら無意味な喧嘩は無さそうだ。

「いや、いい。疲れた」

愛藍はため息を一つ吐くと、店内に戻っていく。
そしてまた彼はカウンター席に座っていた。

一方の樹々は愛藍の背中に向かって舌を出す。

ってか絶対にこの二人仲良いよね?

そして私は『愛藍は誰と電話していたんだろう?』って、考えながら歩いていた。

仕事・・・なんだろうか?

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。