城崎さんや東雲さん、そして橙磨さんに『料理はこう作るんだ』と教えられた。
でも結局は赤崎祭の屋台のメニューは変わった。

本来出すはずだったパンケーキバーガーから、スープニョッキに変わった。
頑張ったけど、目標まで届かなかった。

「完成したのね?」

カウンター席に座っていた城崎さんは私の元へやって来る。
同時に他のみんなも、私が座る席までやって来た。

草太と向日葵は目を輝かせてパンケーキバーガーを見つめている。

「はい!まあ、殆どお父さんが作ってたけどね」

苦笑いを浮かべる樹々だったが、お父さんである東雲さんに肩を叩かれ彼女の表情が緩んだ。

「そんなことないですよ。僕は桔梗ちゃんと一緒にソースを合わせただけですから。パンケーキにハンバーグ全て樹々ちゃんが焼いてくたじゃないですか。それに、茜さんより上手ですよ」

何で東雲さんが私の名前を出したのか理解に苦しんだが次の樹々の言葉でそんなことはどうでもよくなった。

「だよね!茜より絶対にいいよね!なんかそれだけ聞けたらあたしは『幸せ』かも。『頑張った』って胸張って言えるかも。だって『茜より下』って、なんだか情けないじゃん!」

突然襲い掛かってきた刃物のような言葉に、私は怒りを覚える。

そして『喧嘩を売られた』と理解した私は、眉間にシワを寄せて樹々に問いかけた。

「樹々、喧嘩売ってるよね?表出る?」

「いいよ!喧嘩でも負ける気しないし。ほら茜って勉強も運動も出来ないし。喧嘩も絶対に弱いし。吠えるだけ無駄だよ。何よりピアノ以外はあたしより下なんだから、吠えても意味ないよ」

「はあ?今何て言った!」

いつの間にか私は愛藍のように怒っていた。
無意識に立ち上がって、そのふざけた樹々の表情を殴ってやりたいと思った。

親友として、『私をからかうのが楽しい』と思っての樹々の行動なんだと思う。
だけど、いつもやられる私はもう嫌だ。

それに樹々なら喧嘩も勝てそうな気がするし。
実際に体育の持久走は私と最下位を争った仲だし。

・・・・・負けたけど。

と言うか、なんかここ数日で樹々の性格がかなり曲がってしまった気がする。
愛藍の性格が移ったのかな?

同時に私も愛藍と出会って、怒ることが増えた気がする。

「はいはい、その辺で喧嘩は終わり。樹々言い過ぎ」

桔梗さんの言葉に我に返った私だが、樹々は違う。
相変わらず舐めた表情で私見て嘲笑う。

「いいの。茜は誉めて伸びるタイプなんだから」

「どこが誉めてるのさ!」

桔梗さんの言葉で落ち着いたはずの私だが、また樹々に向かって吠える。

と言うかこの喧嘩って東雲さんのせいだよね?
『私より上手』って・・・・・。

東雲さんは絶対にそんなことをしないと思っていたのに・・・・。

でも噂じゃ『若槻家で一番性格が悪い』って樹々から聞いたことがある。
なんでも昔の東雲さん、今では全く想像が付かないけど結構荒れていたみたいだし。

それに『穏やかな悪魔』って息子の瑞季は言っていたっけ。
今なら何となく、その言葉に納得できるかも。

その東雲さんは、城崎さんと難しい話をしていた。
『原価率』や『価格』に『限定何食』とか、難しい会話が聞こえてくる。

私には何一つ理解できない会話が聞こえてくる。

そんな城崎さんに、樹々は声を掛ける。