「『境谷』は聞いたことがありますか?とある音楽ゲームにも使われた曲です」

「うん!一通りは聞いたかな。それと『ALA』って曲も最高!」

「ですよね!」
趣味を共有するだけで人はこんなに笑顔になれるのだろうか。
好きなことを話すことってこんなに楽しいものなんだろうか。

今と言う時間がとても嬉しく感じる。

『K・K』はイタリア出身の人の作曲家だ。
男か女かも分からないし、顔や本名も一切知らない。

そのせいか、世間にはあまり知られていない人。

だから『K・K』のことを知っている人は殆どいない。
春茶先生や栗原先生も『知らない人』って言っていたし。

「『K・K』のコンサートとかあったら行きたいね。まあでも、茜ちゃんのコンサートとかでもいいんだけど」

「え?」

桔梗さんに話題に戻されて、私は少し焦った。
同時に『私の話をしていたんだった』と私は思い出す。

「茜ちゃんはまたコンサートとかコンクールに出るの?」

「いや、そんな予定は全然。桔梗さんには悪いですけど、『人に聞いてもらいたい』と思ってピアノを始めた訳じゃないですし」

そう答えたら何故だか有名なピアニスト『宮崎紅』のことを思い出した。
彼女も『コンサートは好きじゃない』って言っていたから、自分と重ねてしまったのかな?

「茜ちゃんはどうしてピアノを始めたの?」

「えっと、確か中一の時にお兄ちゃんがピアノをくれたのかきっかけって言うか」

覚えている記憶と言えば、落ち込んでいた当時の私を兄がピアノ教室に連れてってくれたこと。

そこで私のピアノ講師である春茶先生と出会った。
同時に栗原先生も一緒に。

・・・・・。

なんでだろう。
どうしてピアノを始めたきっかけを思い出すと頭が痛くなるんだろう。

『落ち込んでいた私に、兄が春茶先生と栗原先生のピアノ教室に連れてってくれた』って言えば何も問題ないのに。
問題ないハズなのに、なんで頭痛がするんだろう。

まるでそこに深い闇があるように。
何だか私、とても大切な事を忘れているような気がする・・・・。