「これ、道端によく生えているやつだ。違うかもしれないけど、何だか似てない?」

樹々といつも一緒に登校する通学路の道端に、よく似た葉っぱが映えているのを私は思い出した。
それがノコギリソウがどうかは分からないけど、ふと思い出した。

でも問題はそこじゃない。
問題は『この草をウサギが食べてもいい草なのか』って事。

そういえば樹々がウサギについて色々と調べてくれたっけ。

って言うか、肝心な時にいないし・・・・。

だけど私の背後から樹々の声が聞こえた。

「ノコギリソウは食べても大丈夫な草みたいだよ。昨日調べた図鑑にも書いてあったし」

その声に慌てて私は振り返ると、そこにはタオルを頭に被せた樹々が私の携帯電話を覗いていた。

そしてもちろん私は驚く。

「うわっ樹々!居たの?」

「ってなんで茜が驚いているの?」

「いや、何となく?雰囲気作り?紗季を驚かせるだけの・・・」

私と樹々のやり取りを、紗季は首を傾げて見ていた。
私と同じで『なんで樹々ちゃんがここにいるの?』と言っているような不思議そうな表情。

一方の私は思い出した。
樹々と打ち合わせをした、数分前の出来事。

実は樹々、私より先に図書室に訪れていた。
自分のタオルを被って、仕事を放り投げた怠け者の図書委員を演じてくれた。

手前の机で寝たフリをしていた。
私と紗季の会話をこっそり聞くだけのために。

不安な私を支えるために、彼女は隠れながらも私の側にいてくれた。

って言うか、この学校に図書委員なんて言葉はないし。
この学校では『図書委員』は死語だし。

殆どの生徒が図書室の本を利用しないから、本を借りる人もいないし。
勝手に持ち出してもいいらしいし・・・・・ 。

ってか、紗季は樹々の存在に気が付いていたのだろうか?
あんまり驚いてはいないみたいだけど。

まるで最初から樹々が居たことを知っていたような薄い反応。

樹々はもう必要がなくなったタオルを肩に掛けて私の隣に座る。
そして予め用意していた動物図鑑を私達の目の前に置いた。

と言うかその動物図鑑、小学校の本じゃないかな?
裏面には昨日行った小学校名が書かれているし。

いつの間に『借りた』のだろう。

・・・・じゃなくて、いつの間に『盗んできた』のだろう?