「どうして笑う?紗季?」

その紗季の変わり果てた姿を見て、私は一気に不安に包まれた。

私、何か変なことを言ったのだろうか。
いや、言ったつもりなんだけど、そんなに笑う所かな?

笑い過ぎたのか、紗季の目には涙があった。
そしたその涙を手で拭うとと、私に優しい笑顔を見せてくれる。

「ビックリした。まさか茜ちゃんに説教される日が来るとは思わなかったから」

何故だか喧嘩を売られている気分になった私は直ぐに反論する。

「軽く私の事バカにしているよね?」

「そうかな?でも『自分の事が少し情けない』と思った。『茜ちゃん以下』だと思った」

はい、ぶん殴る。

「絶対にバカにしてでしょ!紗季!」

紗季に対して怒る自分がいる。
『背後から首を絞めてやろうか』と思ったりもしたけど、同時に『まあいっか』と紗季の挑発に納得する自分もいる。

紗季とこんなこと言い合ったのは初めてだからかな?

でも紗季はまた私を『挑発』する・・・・。

「それとやっぱり茜ちゃんって純だよね。『真っ直ぐで頑固で嘘つけない性格』って言うか。無愛想なのによく泣くし」

「最後の言葉は余計だよね?」

「誉めてるの。同時に羨ましいなって思うの。『私も素直になれたら、どんなに幸せになれたのかな?』って・・・・」

その紗季の言葉に、私の脳裏に『山村紗季』という女の子の人生が浮かんだ。

紗季生まれつき身体が弱く、『幼児期は殆ど病室で過ごした』と言っていた。
まともにみんなと一緒に遊ぶことなんて出来ないし、学校のグランドを走り回ることすら出来なかった。

そんな彼女に与えられたのは、ふざけた親から言われた一言のみ。

『人生の勝ち組になりなさい』

その言葉を紗季は信じて、紗季は勉強を頑張った。
学力は誰にも負けず、学力テストの点数は常にトップだった。

でもそれは『偽りの山村紗季』の姿。

本当の紗季は勉強なんてしたくなかった。
本当はずっと大好きなゲームをしたかっただけ。

『勉強が出来たらゲームをしてもいい』という条件を親と約束命じられたから、紗季は常に勉強を頑張っていただけ。
やりたくない勉強をさせられて、その行動がすでに『紗季が嘘を作る動機』になって、紗季の心はどんどん荒んでいく。

それに『生まれ付き体調が悪い』と言う理由で、小学生時代はクラスメイトから離れて保健室登校。

おまけに両親からの理不尽な虐待。
更に不幸にも妹である小緑のあの一件・・・・・。

確かに私が紗季のような人生を歩んだら、『嘘を付かないと生きていけない』と思う。
『こんなにも自分対して理不尽な世界、真面目に生きていく方がバカ』だと思う自分が現れそうだ。

ってかそれ、『紗季のせい』じゃないじゃん。
だって紗季は望んでそんな人生を選んだんじゃないし。

そもそも好きで産まれてきた訳でもないんだし。

だから、そんな理由で自分を責めていい理由にはならないと私は思う。
紗季は何一つ悪いことしていないんだし。

というか、紗季は『自分が嘘ついている』と言っている時点で、『紗季が純で素直な人の証拠』だと思うのに。

紗季はその事に気がついているのかな?